モーツァルト 『春への憧れ』

  • 2019.04.23 Tuesday
  • 21:21
ドイツの春の歌と言えばやはり5月の歌だ。今年は日本でも昔からよく歌われたモーツァルトの『春への憧れ(五月の歌)』を聴きながら春の訪れを待ち望むドイツ語圏の人々の心情に思いを馳せてみよう。この歌は『野ばら』などと同じく、本来芸術リートでありながらいまや民謡と意識されている代表例の一つだ。

 Sehnsucht nach dem Frühlinge

  Text:Christian Adolf Overbeck
  Musik:Wolfgang Amadeus Mozart

Komm, lieber Mai, und mache
die Bäume wieder grün,
und lass mir an dem Bache
die kleinen Veilchen blühn !
Wie möcht’ ich doch so gerne
ein Veilchen wieder sehn,
ach, lieber Mai, wie gerne
einmal spazieren gehn!

Zwar Wintertage haben
wohl auch der Freuden viel;
man kann im Schnee eins traben
und treibt manch Abendspiel,
baut Häuserchen von Karten,
spielt Blindekuh und Pfand;
auch gibt’s wohl Schlittenfahrten
aufs liebe freie Land.

Doch wenn die Vöglein singen
und wir dann froh und flink
auf grünen Rasen springen,
das ist ein ander Ding !
Jetzt muss mein Steckenpferdchen
dort in dem Winkel stehn,
denn draußen in dem Gärtchen
kann man vor Kot nicht gehn.

Ach, wenn’s doch erst gelinder
und grüner draußen wär’!
Komm, lieber Mai, wir Kinder,
wir bitten dich gar sehr !
O komm und bring vor allem
uns viele Veilchen mit,
bring auch viel Nachtigallen
und schöne Kuckucks mit !


 ゼーンズフト ナッハ デム フリューリンゲ

テクスト: クリスティアン・アドルフ・オヴァーベック
ムズィーク: ヴォルフガング・アマーデウス・モーツァルト

コム、リーバー マイ、ウント マッヘ
ディー ボイメ ヴィーダー グリューン、
ウント ラッセ ミア アン デム バッヘ
ディー クライネン ファイルヒェン ブリューン!
ヴィー メヒト イッヒ ドッホ ゾー ゲルネ
アイン ファイルヒェン ヴィーダー ゼーン、
アッハ、 リーバー マイ、ヴィー ゲルネ
アインマール シュパツィーレン ゲーン!

ツヴァール ヴィンターターゲ ハーベン
ヴォール アオホ デア フロイデン フィール;
マン カン イム シュネー アインス トラーベン
ウント トライプト マンヒ アーベントシュピール、
バオト ホイザーヒェン フォン カルテン、
シュピールト ブリンデクー ウント ファント;
アオホ ギープツ ヴォール シュリッテンファールテン
アオフス リーベ フライエ ラント。

ドッホ ヴェン ディー フェーゲライン ズィンゲン
ウント ヴィア ダン フロー ウント フリンク
アオフス グリューネン ラーゼン シュプリンゲン、
ダス イスト アイン アンダー ディング!
イェッツト ムス マイン シュテッケンフェアトヒェン
ドルト イン デム ヴィンケル シュテーン、
デン ドラオセン イン デム ゲルトヒェン
カン マン フォア コート ニヒト ゲーン。

アッハ、ヴェンス ドッホ エアスト ゲリンダー
ウント グリューナー ドラオセン ヴェーア!
コム、リーバー マイ、ヴィア キンダー、
ヴィア ビッテン ディッヒ ガール ゼーア!
オー コム ウント ブリング フォア アレム
ウンス フィーレ ファイルヒェン ミット、
ブリング アオホ フィール ナハティガレン
ウント シェーネ ククックス ミット!


  春への憧れ

 詩:Ch. A. オヴァーベック
 曲:W. A. モーツァルト

五月よ来い、早く来い!
木々を再び緑にし、
川辺にかわいい
スミレを咲かせて!
あの花にまた会えるのは
どんなに嬉しいことか、
ああ、楽しい五月よ、
早く野山を歩きたい!

冬には冬の
楽しみもたくさんある。
雪の中を駆け回れるし、
夕べの遊びも楽しめる。
カードの家を作ったり、
鬼ごっこで遊んだり。
野原に出たら思い切り
ソリ遊びも楽しめる。

だけど小鳥がさえずって
みんな陽気に元気よく
緑の野で飛び跳ねるとき、
冬とは気分が大違い。
春駒は出番がなくて
今は隅に立ててある、
外のお庭はぬかるんで
棒の馬は進めないから。

ああ、早くもっと暖かくなり
外が緑に包まれたらいいのに。
五月よ来い、早く来い!
子どもたちは待ち焦がれてる。
五月よ早く来て真っ先に
スミレをたくさん咲かせてほしい!
それから小夜鳴き鳥と
きれいなカッコーも連れて来て!

       (訳:船津 建)

長い冬に飽きて春の到来を待ちわびている、そしてその春はもうすぐそこまで来ていて子どもたちは胸を弾ませているという内容で、以前取り上げた『うるわしの五月』のように春のただ中で歌っているわけではない。アメリカ生まれながらドイツリートの世界に新境地を開いたと言えるバーバラ・ボニー(Barbara Bonney)の演奏でまず聴いてみよう。



1行目最後の mache と2行目最後の Bache は韻を踏んでいるのだが、1行目の ache の発音が微妙に違うところに唯一ネイティヴ・スピーカーでないことが伺われるが、そんな些細なことは問題にならないないほどすぐれた演奏だと思う。この歌手の歌うドイツリートを聴いて常々ぼくが感じるのは、r 音の発音が自然の会話にかなり近いということだ。55年前にぼくがドイツ語を学び始めた頃は、r の発音に関しては古典演劇やドイツリートでは巻き舌の r (Zungen-r)を使うという風に習ったものだった。しかし半世紀も過ぎると変化が生じてきて、日常の会話は言うまでもなくリートの歌唱でも特に語尾の巻き舌は後退傾向にあるようだ。巻き舌が目立ち過ぎると最近とみに耳触りに感じるようになった。
次に聴くのは戦後長い間ドイツリートの女性歌手と言えばこの人というほどの存在だったエリーザベト・シュヴァルツコッフ(Elisabeth Schwarzkopf)の演奏だ。今述べたことを実感してもらえるだろうか。



聴く人によって好みは分かれるだろうが、歌唱スタイルに時代の推移を感じざるをえない。ちなみにこの二人の生年はシュヴァルツコッフ1915年、ボニー1956年だ。
さて肝心の詩の内容について改めて読み返し鑑賞してみよう。第1節の最後に「早く野山を歩きたい!」とあるが、冬の間地面を見ることもなく過ごす雪国生まれの身にはとてもよく理解できる。第2節は冬の楽しみを述べている。暖炉の前での一家団欒の光景は、日本ならさしずめ炬燵を囲んでの団欒だろう。冬の夜は外出しないので大人がゲームに付き合ってくれるのが子どもの喜びだった。外での遊びとして7行目にソリが出てくる。幼い子どもにはスキーよりもソリだ。ぼくも5歳の頃、家具職人の父が屋根や窓の付いたソリを作ってくれ、それに乗ったぼくを姉たちが押して通りを進むのがちょっぴり誇らしかったのを今でも覚えている。第3節に春駒(はるごま)という語が出てくる。大辞林には「竹の棒の一端に馬の首形をつけ、他端に車をつけたもので、またがって遊ぶ」とあるが、作りの良いものは一般家庭の子どもには無縁で、この詩の子どもたちも上流家庭の子と思われる。「外のお庭はぬかるんで」という1行も、雪国生まれの脳裏には光景がまざまざと浮ぶ。地面が雪におおわれているのはそれなりに美しいし、久しぶりに姿を見せた地面は懐かしいのだが、その中間の雪解け時期の地面は最悪だ。見た目も悪いし、歩きにくい。子どもが遊ぶにも不都合で、早く消え去り乾いてほしいと願ったものだった。そして最終節で花、新緑と並び春を告げる三役のひとつ小鳥が登場する。しかし題名にあるようにそれは今のところまだ憧れに過ぎないのだ。

作詩のオーヴァーベックという人はドイツ北部の都市リューベック(Lübeck)の市長として、ナポレオンのマリー・ルイーズとの結婚式に参列した経歴を有する法律家・政治家・外交官・詩人。1781年に書かれたこの詩に、1791年モーツァルトが曲を付け、『すみれ(Das Veilchen)』と並ぶ彼の代表的歌曲となった。同じ詩にシューマンも曲を付け、『子どものための歌のアルバム(Liederalbum für die Jugend)』(1849年)に収録したが、モーツァルトの歌の人気には遠く及ばなかった。モーツアルトの曲の方は第一次大戦前は、プロイセンの学校唱歌のような位置づけだったが、ナチス時代押しやられ、第二次大戦後ふたたび代表的な民謡のひとつとして復活した。
日本では青柳善吾(1884〜1957)という人が詞を付け広く歌われた。こちらの方は春を待つ心ではなく、春たけなわを楽しむ内容になっているが、もしかすると五月がドイツと日本ではかなり季節感が異なるところから来た一種の誤解に基づくのかもしれない。春の到来が日本とは一ヶ月以上は違うからだ。しかしそんなことは別にして、原詩の内容は特に素朴でも洗練されてもいないので、美しいメロディーに乗せて歌うには良くできた詞だとぼくは思う。残念なのは倍賞千恵子や鮫島有美子といった唱歌の名手が歌ったものがYouTubeにアップされていないことだ。この歌は今ではもう70代以上の世代にしか愛唱されていないのだろうか。


   五月の歌

楽しや五月 草木は萌え
小川の岸に すみれにおう
やさしき花を 見つつ行けば
心もかろし そぞろ歩き

うれしや五月 光は映え
若葉の森に 小鳥うたう
そよ風わたる こかげ行けば
心もすずし そぞろ歩き

    (詞:青柳善吾)

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