アメリカのフォークソング: ドナ ドナ

  • 2018.07.03 Tuesday
  • 21:38
戦争の世紀であった20世紀は、同時にまた数々の反戦歌を生み出した。特にベトナム反戦運動と反人種差別闘争の盛んだった1960年代にはアメリカに始まったフォークソングが全盛時代を迎えた。その中でもプロテストソングの代表と言えるのがこの歌だ。歌ったジョーン・バエズ(Joan Bayez 1941〜)の声と風貌、そして歌のメッセージ性が若者の心をつかんだ。まず原詞とぼくの訳を紹介し、その後でジョーン・バエズの歌唱を聴いてみよう。    


     Donna Donna

  Words: Aaron Zeitlin
  (English: A. Kevess/T.Schwartz)
  Music: Sholom Secunda

On a wagon bound for market
There’s a calf with a mournful eye
High above him there’s a swallow
Winging swiftly through the sky.

*How the winds are laughing
They laugh with all their might
Laugh and laugh the whole day through
And half the summer’s night.

**Donna Donna Donna Donna
Donna Donna Donna Don
Donna Donna Donna Donna
Donna Donna Donna Don

Stop complaining, said the farmer,
Who told you a calf to be?
Why don’t you have wings to fly with
Like the swallow so proud and free?

* ** Refrain

Calves are easily bound and slaughtered
Never knowing the reason why.
But whoever treasures freedom,
Like the swallow has learned to fly.

* ** Refrain


   ドナ ドナ

 詞:アーロン・ツァイトリン
 (英訳:A.キーブス、T.シュワルツ)
 曲:ショーロム・セクンダ

市場に向かう荷馬車の上に
悲しい眼をした仔牛が一頭、
頭上はるかにツバメが一羽
すいすい空をかすめ飛ぶ

*風が激しく笑っている
力いっぱい笑うのだ
朝から晩まで笑うのだ
夏の夜中の半分も
 
**ドナ ドナ ドナ ドナ
ドナ ドナ ドナ ドン
ドナ ドナ ドナ ドナ
ドナ ドナ ドナ ドン

文句はやめろと農夫が言った
仔牛に生まれたのはお前の定め
飛べる翼を持ってみろ
自由を誇るツバメのように

* **リフレイン

仔牛はさっさと縛られて
訳も分からず屠(ホフ)られる
しかし自由を尊ぶものは
ツバメのように飛べたのだ

* **リフレイン

       (訳:船津 建)



ジョーン・バエズが1960年にレコードを出してから有名になったこの歌は元から上のような歌詞で歌われていたわけではない。ユダヤ人の言語であるイディッシュYiddishで戦前に書かれたアメリカのミュージカル≪Esterke≫(1940〜1941年、エステルケはヒロインの名前)の中で、<Dana Dana>というタイトルで歌われたものだった。作詞者、作曲者ともユダヤ人で、書かれたのはドイツや東欧をナチスが支配していた時代だったということさえ分かれば、歌に込められた寓意も自ずから明らかになるだろう。wagonには荷馬車の他に貨車(イギリス英語)、囚人護送車(アメリカ英語)の意味もある。最初アメリカのユダヤ人社会で人気を博した頃には、当然のことながら貨車で強制収容所に運ばれる同胞のことが想起されたことだろう。しかしジョーン・バエズの歌で広く知られるようになると、荷馬車に乗せられた仔牛は、60年代から70年代にかけて徴兵されベトナム戦線に派遣される若い米軍兵士を連想させ反戦歌の性格を帯びるようになった(当時アメリカはまだ徴兵制度のある時代だった)。
イディッシュというのは、ドイツ語とヘブライ語、スラブ語をミックスした言語で、世界中のアシュケナージ系(ドイツ系ユダヤ人のこと、アシュケナージはヘブライ語でドイツを意味する。16世紀頃からドイツ、東欧系のユダヤ人をさす言葉としてつかわれるようになった。滝川義人『ユダヤを知る事典』東京堂出版 1994年より)及びその他のユダヤ系400万人によって使用されている。イディッシュで書かれた『ダナ ダナ』のままだったらこの歌は歴史の中に忘れ去られていただろう。作曲者セクンダ自身がタイトルを<Dona Dona>と変えて英訳したが、それは人気を呼ばなかった。1956年ごろアーサー・キーヴスとテディ・シュワルツによって英訳されてから広く知られるようになり、ジョーン・バエズのレコードによって一挙にヒットすることになったのだ。その時に初めてタイトルが今の<Donna Donna>と変えられた。

この歌はドイツ語、フランス語、日本語、ヘブライ語、ロシア語など多くの国の言葉に訳され、いろんな歌手によって歌われた。ドイツのフォークサンサンブルZupfgeigenhansel(ツプフガイゲンハンゼル 「ギター野郎」の意味)は、1978年≪Jiddische Lieder≫(イディッシュの歌)と題するアルバムに<Dos Kelbl>(仔牛の意味のイディッシュ)というタイトルで収録している。



日本では安井かずみの訳詞で歌われ、ひと頃は学校の教科書にも載せられていたが、原詞の意味は半分くらい抜け落ちているし、そもそも学校で習う時には歌の寓意などはほとんど無視されていただろう。それでもこの歌は聞く人の耳にこびりつき、思わず口ずさんでしまう力を備えていた。では日本語版をザ・ピーナッツの歌唱で聴いてみよう。



仔牛がナチス支配下のユダヤ人(あるいは反体制者)の隠喩だとすれば、農夫は役人や政治家か、そしてツバメはナチス(あるいは体制)に従順な市民ということになるだろう。それでは「1日中激しく笑っている」風は何の隠喩だろうか。ぼくは「世間」、「時代」のことだと思う。「世間の風は冷たい」と言うし、「時代の風潮」という言葉もあるではないか。

この歌は歌詞の内容、ジョーン・バエズの歌唱、時代の潮流、その三つが一体となって人びとの心に響き、20世紀を代表する忘れがたい曲のひとつとなったのだ。






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