韓国の子守歌『島の赤ちゃん』

  • 2017.11.25 Saturday
  • 20:33

韓国の代表的な子守歌と言えばおそらく誰もがこの歌を思い浮かべるだろう。韓国ドラマなどでもよく耳にする。子守歌であると同時に「母を想う歌」の代表的な存在とも言えるだろう。まずは原詞とぼくの訳詞を挙げてみよう。訳詞は原曲に合わせて歌えるように工夫してある。

    섬집아기

       작사:한인현
       작곡:이흥렬

엄마가 섬그늘에 굴 따러 가면
아기가 혼자 남아 집을 보다가
바다가 불러주는 자장노래에
팔베고 스르르르 잠이 듭니다

아기는 잠을 곤히 자고 있지만
갈매기 울음소리 맘이 설레어
다 못찬 굴바구니 머리에 이고
엄마는 모랫길을 달려 옵니다

    ソムチップアギ

      チャクサ ハン・インヒョン
      チャッコク イ・フンニョル

オンマガ ソムクヌレ クル タロ ガミョン
アギガ ホンジャ ナマ チブル ポダガ
パダガ プルロジュヌン チャジャンノレエ
パル ペゴ スルルル チャミ トゥムニダ

アギヌン チャムル コンヒ チャゴ イッチマン
カルメギ ウルムソリ マミ ソルレオ
ター モッチャン クルバグニ モリエ イゴ
オンマヌン モレキルル タルリョ オムニダ
  
   島の赤ちゃん

      作詞:韓寅鉉
      作曲:李興烈

母さん入江に牡蠣取りに
赤ちゃんひとりでお留守番
海のさざなみ子守歌
うとうと眠りに誘われる

赤ちゃんすやすや寝ているが
カモメの声に胸騒ぎ
かごを頭にそそくさと
母さん砂浜駆けもどる

     (訳:船津 建)

韓国の初等学校(小学校)の教科書に載っていて、4年生くらいで習うようだ。作詞は韓寅鉉(ハン・インヒョン 1921〜1969)で、初等学校の教員だった人だ。作曲は同郷(元山 ウォンサン 現在は北朝鮮の都市)の李興烈(イ・フンヨル 1909〜1980)だ。この人は日本の植民地下にあった時代、東洋音楽専門学校(現東京音楽大学)に留学し1931年に帰国、後に作曲家、指揮者、ピアニストとして活躍するとともに音楽教育に携わった。ここで李仙姫(イ・ソンヒ)の歌唱で聞いてみよう。



作詞者の世代を反映してこの歌も『故郷の春』と同じく日本的な七五調の詞だ。そのせいか原詞の意味をほとんど損なわずに同一音節数で日本語に訳すことができた。日本語で歌ってみてもらえたら嬉しい。

この詩の成立したいきさつについては諸説がある。1950年朝鮮戦争(韓国では6.25 ユギオと言う)が勃発した時釜山に避難していた作者が、附近の小さな島を散策中とあるあばら家を見つけて中に入ると赤ちゃんがひとりで寝ていた。見知らぬ男が家に入るのを浜辺で見ていた母親があわてて駆けもどってきたという体験を詩にしたと言われている。別の説では1946年児童詩集『タンポポ』に収録、1950年雑誌『小学生』に掲載されて広まったと言う。

成立の時代背景を考えると韓国が窮乏のどん底にある頃で、母親は乳飲み子を置いて仕事(海女)に出かけている。子守りをする者もいないし、もしかすると夫も出征しているかすでに戦死しているのかもしれない。日本の農村でも同じ時代には子どもを柱にひもでつないで野良に出かけることがあった。この歌の母親は牡蠣を取っていても、ひとり置いてきた子どものことが気がかりで、カモメがしきりに鳴く声に急に胸騒ぎを覚え、籠はまだ一杯にならないのに、そそくさと家路をたどる。そんな母心を歌っているが、籠を頭に載せてというのがいかにも韓国的な情景だ。

曲調は子守歌にふさわしいが、内容はむしろ貧しい時代に女手一つで必死で子どもを育ててくれた母への想いを歌っているように思われる。舞台は都会ではなく田舎、それも小さな島の家(おそらくはあばら家)なのだが、大半の韓国人は自分の境遇と直接重ならなくてもなぜか懐かしさを覚えるのだろう。日本人でも70〜80歳くらいの世代はこの歌を聞くと戦後の貧しい時代を思い出すが、韓国の場合は朝鮮戦争を経験しただけに思いはさらに痛切だろう。その戦争は1953年に休戦するが、その頃ぼくは広島の山奥の村で6〜7歳、米軍の戦闘機B29が上空に現れるたび怖くて家に駆け込んでいたのをよく覚えている。それが朝鮮半島に向かうものだとはつゆ知らず、ただただまた原爆が落とされるのではないかとその恐怖に震えていた。日本の植民地支配から解放されてわずか5年で悲惨な戦争に巻き込まれた隣国の歴史を知ったのはずっと後になってのことだった。

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